下腿浮腫の鑑別

医師(医学生)向け

はじめに

下腿浮腫は多くの疾患に関連して発生するため、正確な鑑別診断が重要です。浮腫の原因は、大きく分けて全身性と局所性に分類されます。以下に主要な鑑別診断項目を挙げ、それぞれについて詳述します。

1.心不全

心不全は全身性浮腫の一般的な原因です。心臓のポンプ機能が低下し、静脈圧が上昇することで下肢に浮腫が生じます。

  • 症状: 呼吸困難、夜間の発作性呼吸困難、疲労感。
  • 身体所見: 頸静脈怒張、肝腫大、両側性の圧痕性浮腫。
  • 検査: 胸部X線、心エコー、BNP/NT-proBNP。

2.肝硬変

肝硬変に伴う低アルブミン血症や門脈圧亢進が浮腫の原因となります。

  • 症状: 腹部膨満、易疲労感、黄疸。
  • 身体所見: 腹水、蜘蛛状血管腫、肝掌。
  • 検査: 肝機能検査(AST, ALT, ALP, ビリルビン)、腹部超音波、アルブミン。

3.腎不全

腎不全による浮腫は、ナトリウムと水分の排泄不良が原因です。ネフローゼ症候群も浮腫の一因です。

  • 症状: 尿量減少、血尿、蛋白尿。
  • 身体所見: 顔面や下肢の浮腫。
  • 検査: 尿検査(蛋白尿、血尿)、腎機能検査(クレアチニン、BUN)、腎超音波。

4.深部静脈血栓症(DVT)

DVTは下肢の静脈に血栓が形成され、血流が阻害されることによる浮腫です。

  • 症状: 片側性の下肢痛、腫脹、発赤。
  • 身体所見: 片側性の圧痕性浮腫、Homan徴候陽性。
  • 検査: Dダイマー、下肢静脈エコー、血管造影。

5.リンパ浮腫

リンパ浮腫はリンパ系の障害により、リンパ液の滞留が原因です。

  • 症状: 片側または両側の下肢の腫脹、重さ感。
  • 身体所見: 非圧痕性浮腫、皮膚の硬化。
  • 検査: リンパシンチグラフィー、MRIリンパ管造影。

6.薬剤性浮腫

特定の薬剤(例:カルシウム拮抗薬、NSAIDs、コルチコステロイド)が浮腫を引き起こすことがあります。

  • 症状: 下肢の腫脹、体重増加。
  • 身体所見: 両側性の圧痕性浮腫。
  • 評価: 投薬歴の確認。

7.甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症では粘液水腫による浮腫が見られます。

  • 症状: 疲労感、寒気、便秘、体重増加。
  • 身体所見: 非圧痕性浮腫、乾燥した皮膚。
  • 検査: 甲状腺機能検査(TSH, FT4)。

8.静脈不全

静脈弁の機能不全により血液が下肢にうっ滞し、浮腫が生じます。

  • 症状: 下肢のだるさ、痛み、夜間の浮腫の悪化。
  • 身体所見: 静脈瘤、皮膚の色素沈着。
  • 検査: 下肢静脈エコー、ドップラー検査。

鑑別診断のアプローチ

  1. 病歴聴取
    • 発症のタイミング、経過、浮腫の左右対称性。
    • 既往歴(心疾患、肝疾患、腎疾患、血栓症など)。
    • 薬剤使用歴(特に浮腫を引き起こす薬剤)。
  2. 身体所見
    • 浮腫の性質(圧痕性か非圧痕性か)。
    • 他の身体所見(頸静脈怒張、腹水、黄疸、静脈瘤、皮膚変化など)。
  3. 検査
    • 血液検査(CBC、電解質、腎機能、肝機能、アルブミン、BNP、甲状腺機能)。
    • 画像検査(胸部X線、腹部超音波、心エコー、下肢静脈エコー)。
    • 尿検査(蛋白尿、血尿)。

まとめ

下腿浮腫は多岐にわたる原因が考えられるため、詳細な病歴聴取と身体所見、適切な検査を通じて正確な診断を行うことが重要です。鑑別診断を行うことで、適切な治療法を選択し、患者の症状改善につなげることができます。

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