PTSDと複雑性PTSDに対するSSRIのエビデンス総まとめ

精神科臨床

PTSDにおけるセルトラリンの有効性

セルトラリンは、数多くのランダム化比較試験によって有効性が示されてきた薬剤です。主要な改善効果は以下の症状クラスターに認められています。

● 回避・感情麻痺症状

外傷体験に関連する状況を避けたり、感情が平板になるといった症状に対して、セルトラリンはプラセボより明確な改善効果を示します。患者が日常生活に再び関わりやすくなるという重要な意味があります。

● 過覚醒症状

寝つきの悪さ、イライラ、過度の警戒心などに対しても有意な改善が認められています。臨床では睡眠の質が早期に改善する例も見られ、治療継続の動機づけにもつながります。

● 再体験症状

フラッシュバックや悪夢などの症状に対しては、総合的には改善が見られるものの、試験によっては有意差が小さいこともあります。とはいえ、症状全体の負担を軽減する一助となることは確かです。

さらに、長期維持療法では症状再発を予防する効果も示されており、安定した治療が重要であることを示唆しています。

複雑性PTSDにSSRIは推奨されるのか?

近年、ICD-11において「複雑性PTSD(CPTSD)」が独立した診断カテゴリーとして定義されました。CPTSDには、従来のPTSD症状に加えて、

  • 感情調節の困難
  • 否定的な自己概念
  • 対人関係の困難

といった「自己組織化障害(DSO)」が含まれます。

● SSRIはCPTSDにも有効なのか?

結論としては、

CPTSDに対してSSRIが有効であるという強固なエビデンスは、現時点で存在しない

というのが国際研究の共通見解です。

その理由は以下の通りです。

● 1. CPTSDを対象としたRCTが乏しい

CPTSDが正式な診断として認知されたのは比較的最近であり、薬物療法単独の研究がほとんど行われていません。

● 2. PTSDの薬物エビデンスをそのまま適用できない

SSRIがPTSDのコア症状に効果を示すことは確かですが、CPTSD特有の「自己調整障害」に対する薬物効果は確認されていません。

● 3. 各種ガイドラインでも心理療法が中心

CPTSDでは段階的アプローチやトラウマフォーカス認知行動療法、スキーマ療法、DBTなどが推奨されており、薬物療法は補助的な位置づけにとどまります。

臨床的にはどう使われるのか?

CPTSD患者でも、以下の症状が強い場合にはSSRIが併用されることがあります。

  • 抑うつ症状
  • 不安症状
  • 睡眠障害
  • PTSDのコア症状の一部

つまり、SSRIはCPTSDの「治療薬」ではなく、併存症状に対する補助療法として位置づけられています。

まとめ

PTSDに対してSSRI、とくにセルトラリンは確かなエビデンスに基づいた治療選択肢です。しかし、複雑性PTSD(CPTSD)に関しては、まだ研究が十分とは言えず、現時点では心理療法が治療の中心となります。薬物療法は主に併存症状への対応として慎重に使われるべきと考えられます。

今後、CPTSDに特化した薬物治療研究が進むことが期待されますが、現段階では、患者ごとの症状特性に応じて心理療法と薬物療法をバランスよく組み合わせることが重要です。


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